
自筆証書遺言の書き方とは?手軽だけど難しい遺言を書き終える全手順
一昔前は、生前に遺言など「死」に関わる話題をすることがあまり好まれていませんでしたが、最近では「終活」という言葉も広がり生前から準備をしておく意識が高まってきました。
いつでも自分で手軽に作成できて、所定の手続きが無く、費用もかからないという自筆証書遺言は、遺言書の検認の件数をみると平成26年に1万6843件となっており、年々増加傾向にあります。
※検認とは、自筆証書遺言を発見したら家庭裁判所に申し立てをおこない、遺言の存在と内容を認定する手続きです。
この自筆証書遺言は手軽で費用がかからない一方で、書き方のルールが複雑であったり、正しい書き方ができていない場合には無効になってしまうため理解を深めてから作成する必要があります。しっかりとご自身の意思を残すためにも本記事を参考にして書き方のポイントを抑えて作成をしましょう。
Contents
1.自筆証書遺言は自分で書かないと無効になる遺言
自筆証書遺言は、かたい話をすると、遺言のひとつで民法968条に規定されたとおり「遺言者が、その全文、日付及び氏名を自書し、これに印を押さなければならない」というルールがあります。つまり、自筆証書遺言は民法のとおり「全文を自分の手で書いた遺言」であることがポイントであり、遺言書を作成した方の筆跡を確認することで、遺言者の意思であると判断されます。
よって、パソコンやスマートフォンを利用して作成したものや、身内であっても他の方が代筆したものは、ご本人の意思なのか改ざん等をされたものなのか判断ができないため無効となってしまいます。また、音声やビデオの映像で残した遺言も無効となってしまいます。
2.自筆証書遺言を自分だけで完成させる8つの書き方
自筆証書遺言は、「不備があると無効になってしまうおそれ」があります。そこで、最低限おさえておきたい自筆証書遺言の書き方について8つのポイントをまとめました。ルールをおさえて正しい遺言を作成しましょう。
自筆証書遺言を作成するためには、事前に万全の準備が必要となります。もし、準備が整っていない場合には3章以降を確認して、事前準備をおこなってから作成を進めていきましょう。
2-1.書き方①:全て自分の手で手書きし、作成日を記入する
先に記載のとおりパソコンやスマートフォンで作成したものや代筆してもらったものは無効となりますので、必ずご自身の手書きで作成しましょう。また、遺言書は書き直しができますが、日付をきちんといれて新しい遺言書を作成した場合には、古い遺言書は忘れず処分しましょう。
2-1-1.夫婦で築いた財産でもそれぞれ自分で作成しないと無効になる
ご夫婦でともに築いた財産をお子さんたちに遺すための遺言を作成したいと思われる場合もありますが、遺言書は遺言者1名が全ての文書を手書きして署名する必要がありますので、ご夫婦など共同での遺言は無効となってしまいます。ご夫婦の財産をお子さんたちに遺すための遺言を作成する場合には、ご夫婦で別々の遺言書を作成しましょう。
2-1-2.準備する筆記用具と用紙は改ざんや劣化が起こらないものを選ぶ
自筆証書遺言を作成する場合には、次の2つに注意して準備をしましょう。
・筆記用具はボールペン・万年筆などの消せないものを利用(改ざんを防止)
・紙は摩耗の少ないしっかりした用紙を利用(長期の保管)
2-1-3.遺言書の作成日は日にちが特定できるように手書きで記載する
遺言は何度も見直しをすることもあり、複数の遺言書が見つかる場合があります。その際には一番新しい遺言が有効となるため作成日は必ず記入しましょう。
・「20XX年XX月XX日」のように日にちまで特定できること
・「○月吉日」「スタンプなどの代用」は無効
2-2.書き方②:署名・押印は必ずおこなう
署名は芸名・通称・屋号といった署名でも本人確認(本人の確定)ができれば名前でなくても法律上有効とされていますが、トラブルを避けるためにも戸籍どおりの氏名を書くことをおススメします。押印も認印でも法律上は問題がありませんが、相続人どうしのトラブルを避けるためにも本人が作成したものであることを伝えるためにも実印を使う事をおススメします。
2-3.書き方③:訂正・加筆等は決められた方式でおこなう
書き間違えた箇所の訂正や加筆をする場合には、次のとおり法律で定められた方法があります。必ずこの方法で訂正をしましょう。
訂正・削除・加筆の場合は、図1のとおりおこないます。これらが満たされていないと無効となります。
訂正や追加が多くある場合は分かりにくくなるため、全て書き直しをおススメします。
図1:自筆証書遺言の訂正・削除・加筆の例
2-3-1.自筆証書遺言の訂正方法
・訂正する箇所を二重線で消込み、訂正後の文字を記入する
・訂正した箇所へ押印
・欄外に「XX字削除する」「XX字加入する」と記入して署名
2-3-2.自筆証書遺言の削除方法
・削除する箇所を二重線で消込む
・削除した箇所へ押印
・欄外に「XX字削除する」と記入して署名
2-3-3.自筆証書遺言の加筆方法
・加筆したい箇所に{ で文字を記入
・{ 近くに押印
・欄外に「XX字加入する」と記入して署名
※押印は遺言書全て同じものを利用する
2-4.書き方④:不動産や預貯金は正確に記載する
不動産は登記簿謄本(全部事項証明書)を確認して、住所等を正確に記載します。また、預貯金は金融機関の支店名、預金の種類や口座番号まで正確に記載します。いずれも不明確な表現は無効と判断されるおそれがあります。また、借金等がある場合にも記載しておきましょう。
図2:不動産や預貯金の記載方法
2-5.書き方⑤:法定相続人以外に相続させる場合は「遺贈」とする
自筆証書遺言を活用して法定相続人ではない方に財産を遺す場合には、「相続させる」ではなく「遺贈する」と記載します。生前にご自身の介護をしてくれた方や、内縁の妻などに財産を相続させる場合には、遺言書を作成して財産の全部もしくは一部を遺贈するとすることで可能になります。ただし、法定相続人がいらっしゃる場合には、遺留分などの権利に注意しましょう。
※遺贈について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2-6.書き方⑥:遺言を作成したあとに増えた財産や記載漏れを防ぐ対応をしておく
遺言を作成したあとに財産が増えるケースも珍しくありません。また、全ての相続財産について記載をしたつもりですが忘れていたものがあった。など、こんな時の取り扱いについては、遺言書に「ここに記載のない財産については全て、妻の〇〇に相続させる」というような記載をしましょう。
2-7.書き方⑦:封筒に入れて封印する
民法で規定されていませんが、改ざんなどのリスクを避ける為に、自筆証書遺言は完成したら封筒に入れて封印して保存することをおオススメします。また、図3のように裏面に「開封しないで家庭裁判所に提出すること」と記載しておけば検認をする前に開封してしまうこともなく、改ざんのリスクが無くなります。
図3:封筒のおもてとうらの記載例
※印鑑は、遺言書と同じものを使用すること。書式は縦書きでも可
※遺贈について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2-8.書き方⑧:自筆証書遺言はしっかり保管する
作成した自筆証書遺言は、紛失してしまったり、発見されることがなかったりした場合は、何の意味もなくなってしまうため保管方法に注意が必要です。自筆証書遺言の保管は次の事を確認し、最適な場所を選びましょう。
・相続発生時に、延滞無く遺言書の存在が明らかになる事
・隠匿や、改ざんの恐れが無い所へ保管する事
・貸金庫への保管はNG(相続人全員の同意が無いと開けられない)
→ 全員の実印と印鑑証明書が必要となります。
3.自筆証書遺言を作成する為の3つの事前準備
遺言書は、ご自身のその場の感情で作成をしてしまうと、亡くなられた後にご家族が困ることになる場合もあります。
まずは、本来誰が相続の対象となるか「相続人の確定」と、どれだけ財産があるのか「相続財産の確定」の2つについてしっかりと事前に準備・把握をしてから作成をします。
3-1.準備①:相続人を確認する
自筆証書遺言を作成する第一ステップとして「ご自身の財産を誰にどのくらい相続させるのか」を考える前に、「本来、誰が相続財産を相続することが正しいのか」について相続順位の考え方を利用して確認します。また、「本来、遺言が無かった場合には誰がどの割合で相続財産を相続するはずであったか」については法定相続分の考え方が基準となるためこちらも確認します。
※相続順位について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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図4:相続順位の考え方
3-2.準備②:本来相続人が相続できる割合と遺留分の権利を確認する
遺言を作成する場合には、相続人の皆さんはおおよそ法定相続分で分割された財産を相続できるもの、と思っているところ、遺言があることによって相続できる割合が変わってしまうことがあります。誰かに偏って相続させる場合には、これらのことを念頭においてのちに家族内で仲が悪くならないように工夫をしましょう。また、相続人が最低限相続できる遺留分という考え方があります。こちらを侵害しないように配慮も必要です。
3-2-1.法定相続分の考え方を知って自筆証書遺言を作成する
遺言書がない場合は、「法定相続分」を基準として財産を分割します。この法定相続分は基準であり絶対ではありませんので、亡くなられた方の財産は亡くなられた方の意思を大切にしながら分割をしていきます。具体的には、相続人全員が集まって遺産分割協議という相続財産をどのように分割するかを決める話し合いをおこない、最後は全員が署名・捺印します。
先にも書きましたが、相続人の皆さんはおおよそ法定相続分で分割された財産を相続できるものと思っていますので、この点は遺言書を見つけてびっくりさせないように配慮しましょう。
図5:法定相続分の一例
※法定相続分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3-2-2.遺留分の考え方を知ってから自筆証書遺言を作成する
遺言書があった場合にも、相続人が最低限相続できる財産の割合を「遺留分」といいます。遺言書の内容が「長男に全ての財産を相続させる」といった偏ったものであっても、相続人の配偶者や他のお子さんは遺留分の権利分だけは相続することができます。具体的には、各々が長男に対して遺留分の割合だけ財産を渡すように請求して、相続財産をもらうことになります。こちらもトラブルになりかねませんので、遺言書を作成する際には、相続人の遺留分を侵害していないか確認をしましょう。
なお、ご自身の兄弟姉妹には、遺留分はありません。
※遺留分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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図6:遺留分の一例
3-3.準備③:相続財産を確認し、財産目録を作成する
不動産・預貯金・現金・貴金属他、どのような財産がどれだけあるのかヌケモレなく財産目録を作成して記載しておくと、自筆証書遺言の作成にも亡くなられた後の遺言の執行においてもスムーズとなります。相続財産を確認する際は、つい見逃しがちな「みなし財産」についてもおこないましょう。また相続財産を確認した後は、その財産の保管場所・契約書などの所在も書いておくと相続人が確認する際に安心です。
相続財産の整理については、財産目録を作成すると便利です。
※財産目録について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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図7:相続財産の一例
※みなし相続財産について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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4.メリットとデメリットを確認して自筆証書遺言にするか再検討
自筆証書遺言は、思いたったら自宅でも手軽に作成できることからすぐに始めてしまいがちですが、次のメリットやデメリットを確認した上で、公正証書遺言など他の形式ではなく自筆証書遺言で良いか考えてみましょう。
<メリット>
・自分ひとりで作成できる
・人の手を介さず、いつでも作成・書き直しが出来る
・費用がかからない
・遺言を作成したことや内容を秘密にできる
<デメリット>
・日付・署名・押印等の形式不備による無効のおそれがある
・遺言内容が不明瞭な場合、遺言で相続手続きができない可能性がある
・遺言書の紛失・偽造・隠匿等の心配がある
・発見した相続人は家庭裁判所の検認が必要(約2ヶ月)
4-1.公正証書遺言という公のしくみも比較しておく
公正証書遺言は、公証役場に足を運び遺言者(ご自身)がお話した内容を公証人が筆記して作成する遺言です。公証人は遺言として有効な形式で仕上げてくれますので、自筆証書遺言のデメリットである形式不備による無効のおそれがありません。また公証役場に保管されますので、紛失・偽造・隠ぺい等の心配がなく亡くなられた後は、必ず遺言が執行されます。ただし、手数料等の費用が発生することや証人を2人立てる必要があるなど、費用や準備の手間がかかる点がデメリットです。
自筆証書遺言と公正証書遺言を比較した場合に、どちらがいいと一概には言えませんが、遺言は、遺言者が亡くなった時に効力が発生します。その時に無効とならないよう基本をおさえ、残された家族にご自身の意思が届くようしっかりとした遺言を作成しましょう。
図8:遺言の種類とメリット・デメリット ※平成31年民法改正前
(ご参考) 公正証書の作成手数料
※上記の基準を前提に具体的に費用を決めるルールがあります。
※詳しくは → 日本公証人連合会HP
5.自筆証書遺言は見つかった際に検認の手続きが必要(2ヶ月)
自筆証書遺言のデメリットに記載しましたが、自筆証書遺言は発見をすると相続人の皆さんは家庭裁判所に申し立てをおこない検認の手続きが必要となります。相続税の申告期間が10ヶ月しかないところで、検認には申し立てから完了まで約2ヶ月かかります。またその間は遺言の確認ができないことから手続きが進みません。自筆証書遺言は生前に手軽に作成できる一方で、亡くなられたあとご家族が大変になる点はおさえておきましょう。
※検認について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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6.まとめ
自筆証書遺言は、他の方式の遺言と異なり公証人や証人の立会が必要ないなど、最も手軽に作成できる遺言と言えますが、その分偽造や紛失のリスクが大きく、トラブルになる可能性が高い方式です。
ご自身が遺言を作成する目的は「残されたご家族のため」であるはずですから、「遺言があって良かった」と思ってもらえる遺言書を残さなくてはなりません。「遺言があったせいで家族の仲がめちゃくちゃになった」とならないように気をつけましょう。また、せっかく遺言を作成したのに不備があって無効になってしまうなど、ご自身が亡くなられた後のことですから訂正ができませんし、遺言が無効になれば意思を遺せません。
少しでも自筆証書遺言の作成に不安が残るようであれば、多少費用はかかっても「公正証書遺言」を作成することをお薦めします。