
相続分を譲渡することはできる!譲渡の方法と注意点・相続税との関係
「2年前に亡くなった父の妹である叔母さんが先月亡くなった。叔母さんには子供がいないので、父の兄弟と、父の代襲相続人である自分が相続することになる。親戚とは疎遠なので、正直、相続などしたくない。煩わしいことに巻き込まれないように、何とかする方法はないものか・・・。」
相続をしないためには、いくつか方法があります。最も思い浮かぶ方法は、相続放棄をすることだと思いますが、煩わしい手続きからいち早く離脱するには「相続分の譲渡」という選択肢があります。
本記事では、相続分の譲渡が意味すること、その方法、具体的な事例などを、譲渡するメリットとデメリットを交えて説明しています。相続分の譲渡について、気になられている方は、以下を読み進めていただければと思います。
Contents
1.相続分の譲渡とは自分の法定相続分を譲ること
相続分の譲渡とは、法律で定められた相続できる割合である法定相続分を人に譲ることです。譲る相手(譲受人)としては、一般的に、他の相続人の方である場合が多いと思われますが、相続人ではない第三者の方に対して譲渡することもできます。相続分を譲渡する人を譲渡人といいます。
相続財産を個々に譲渡するのではなく、プラスもマイナスも含めた遺産総額に対して、譲渡人となる相続人が持っている法定相続分の割合を譲ることになります。有償譲渡(譲渡する対価として代金を支払うこと)、または無償譲渡のどちらでおこなっても構いません。
図1:相続分の譲渡とは法定相続分を譲ること図2:譲渡人と譲受人
たとえ相続分の譲渡をしても、相続人であることに何ら変わりはありません。しかし、法定相続分をすべて譲っているので、遺産分割協議などに参加する必要はなくなります。第三者の方に譲渡した場合、その方が遺産分割協議に参加することになります。
※法定相続分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2.相続分の譲渡をおこなう具体的な3つの理由
相続人であることに変わりがないなら、譲渡するメリットとはいったい何だろう?と疑問に感じたのではないでしょうか?相続分の譲渡を実際に選択するケースを具体的にご説明いたします。
2-1.相続人とは疎遠なので煩わしい手続きに関わりたくない
《具体例①》
「代襲相続で、あまり面識のない親戚と相続手続きをすることになった。分割協議するにも、場所も遠いし、参加できる時間もない。なんだか揉めてしまいそうな雰囲気だし、裁判にでもなったら面倒なので、できれば関わり合いたくないな・・・」
図3:疎遠な親戚との相続問題から解放されたい代襲相続などは、相続人間の疎遠な関係性が原因して、相続がスムーズに進まないことがよくあります。話し合いがこじれて、遺産分割調停をすることになれば、余計に手間と労力を費やすことになってしまいます。相続に関わりたくない気持ちが強いのであれば、相続分の譲渡をおこない、煩わしいトラブルから離脱することができます。
2-2.今すぐお金がほしい
《具体例②》
「相続人の数が多く、遺産分割協議がなかなかまとまらない。これでは、財産をいつもらえるのか、まったく目途が立たない。不動産はいらないから、早くお金だけ受け取りたい・・・」
図4:不動産より現金が早くほしい
遺言書がない場合、相続財産は、相続人全員で分割協議をおこない、全員が同意するまで、解約や名義変更などの相続手続きを進めることはできません。分割協議が難航すればするほど、その分財産をもらえるまでの時間がかかることになります。
1人の相続人の方が、不動産などは必要ないから、現金ですぐに受け取りたいと考えた場合、別の相続人の方にご自身の相続分を有償で譲渡すれば、分割協議が整う前に現金を受け取ることができ、その後の手続きに参加する必要もなくなります。
このように相続分の譲渡は、分割協議への参加者を減らし、話し合いを進めやすくするというメリットもあります。
2-3.特定の相続人に譲りたい
《具体例③》
「父の財産だから、自分の相続分はすべて母に譲り、今後の生活に役立ててもらいたい。仕事も忙しく、細かな相続手続きに協力してあげる時間も自分にはないから、すべて任せてしまいたい。」
図5:特定の人に限定して譲りたい相続分の譲渡をしてしまえば、分割協議に参加する必要もなくなり、相続手続きの煩わしさから解放されます。譲渡ではなく、相続放棄をしてしまうと、特定の方に限定して相続分を譲渡することはできず、他の相続人の持分まで増やすことになります。譲りたい方が決まっている場合には、相続分の譲渡が有効といえます。
3.相続分の譲渡をする際の3つの注意点
相続分の譲渡は、「分割協議や相続手続きの煩わしさから解放される、特定の方に相続分を譲ることができる」という、一見メリットが多いように思えますが、注意点もありますので、譲渡の決断をする前に、デメリットについてもご確認ください。
3-1.譲渡しても借金返済の請求には応じる必要がある
相続分の譲渡とは、マイナスの財産も含めたすべての相続財産に対する法定相続分の割合を譲ることですが、相続人として権利が喪失されたわけではありません。亡くなられた方に負債があり、譲渡後にその債権者から返済の請求があれば、残念ながら「関係ない」とはいえません。相続分の譲渡は、債権者の権利には対抗できないと法律で定められています。
その点 相続放棄は、初めから相続人ではないとみなされるので、負債を背負う心配も完全になくなります。亡くなられた方の負債がプラスの財産よりも多い場合は、相続放棄を選択した方が安心です。
また、負債があることを知った上で、相続分の譲渡を選択するならば、負債の取り扱いに関することまできちんと明記した譲渡証明書を作成し、後に証明できるようにしておく、また、返済すべき金額に見合うだけの対価を事前に受け取っておくなどの対策を講じておく必要があります。
図6:相続分の譲渡と負債の関係
3-2.譲渡された第三者は遺産分割協議に参加が必要
相続分の譲渡は、第三者の方に対してもおこなうことができますが、相続とは関係のない第三者の方が分割協議に参加することで、その後の遺産分割協議が難航する可能性があります。
そのため、譲渡人以外の相続人の方には、第三者の譲受人の方から、譲渡された相続分を取り戻す権利が認められています。取り戻す方法は、譲渡された日から1ヶ月以内に、譲渡された相続分に見合う金銭を譲受人に返却する必要があります。1ヶ月を過ぎてしまえば、取り戻す権利を行使することはできなくなります。
3-3.無償譲渡だと特別受益とみなされる可能性あり
相続分の譲渡を無償で受けた方は、将来において「贈与を受けていた」とみなされる可能性があります。
たとえば、お子さんに対して、お父さま(お子さんの祖父)の相続時におけるご自身の相続分を無償譲渡したとします。将来において、ご自身の相続が発生した際に、相続人となるお子さんは無償で譲渡された財産が特別受益にあたると指摘される可能性があるということです。遺留分の計算の際にも、持ち戻される可能性があります。将来的なトラブルの要因にならないように、配慮しておく必要があります。
図7:無償譲渡は将来トラブルの要因となる可能性がある
※特別受益について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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4.相続分の譲渡における知っておきたい2つのポイント
相続分の譲渡をするには、具体的にはどのような手続きをとればよいのか、ご説明いたします。相続分の譲渡は、本人同士の契約で成立し、相続放棄のように家庭裁判所での手続きは必要ありません。
4-1.ポイント①遺産分割協議成立前に契約をする
相続分を譲渡する場合には、譲渡人と譲受人との間で契約をするだけで成立し、ほかの相続人の方の了承は不要です。ただし、注意すべき点として、遺産分割協議が成立する前に譲渡契約を成立させておく必要があります。譲渡人は分割協議に参加する必要はなく、変わって譲受人が分割協議に参加しなければなりません。
図8:相続分の譲渡に関する契約をする
4-2.ポイント②相続分譲渡証明書を作成する
契約は口頭でも構いませんが、譲渡を確実に実行して後のトラブルを防ぐために「相続分譲渡証明書」という契約書を作成し、保管することをお勧めいたします。
これは遺産分割協議において、譲受人の持分を主張できる証拠となりますし、不動産の相続登記をする場合には、必ず提出を求められる書面です。法律で定められた書式はありませんが、以下に相続分譲渡証明書の記載事例をご紹介いたします。
図9:相続分譲渡証明書の一例
5.相続分の譲渡と相続税の関係
相続分の譲渡でかかる税金は、譲渡を相続人に対しておこなっているか、第三者の方に対しておこなっているかによって変わります。また、有償か無償かによっても変わってきますので注意が必要です。
ただし、相続税がかかるのは、亡くなられた方の遺産総額が、相続税がかからない基礎控除額以上だった場合に限ります。また、贈与税も1年間で110万円を超える贈与を受けた場合でなければかかりません。どのような税金がかかるのかという確認とともに、金額的に課税対象となるかどうかの確認が必要となります。
※相続税がかかるかどうかの判定について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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5-1.相続人への無償譲渡では譲渡人に相続税はかからない
他の相続人に対して、無償譲渡をおこなった場合、譲渡人は相続で何も取得しないことになります。相続税がかかるほどの財産規模だった場合でも、譲渡人に相続税は課税されません。一方、譲受人である相続人は、受け継いだ財産の割合に応じた相続税を納付することになります。
譲渡が贈与に該当して、贈与税までかかるのではないか?と心配される方がいらっしゃいますが、相続人への譲渡の場合、相続税で処理されるので贈与税はかかりません。
5-2.相続人への有償譲渡では譲渡人に相続税がかかる
他の相続人に対して有償の譲渡をする場合、その受け取った金銭に相続税が課税されます。また、譲渡を受けた方は受け継いだ財産から譲渡の際に支払った金銭を引いた上で相続税が課税されます。
5-3.第三者への譲渡では譲渡人に相続税がかかる
第三者の方に無償譲渡をする場合は、相続税は、いったん譲渡人である相続人が相続したものとみなされて課税されます。無償の譲受人には贈与税が課税されます。
有償譲渡で、譲渡した財産の中に不動産があった場合、譲渡によって利益が生じたならば、譲渡人には譲渡所得税も課税されます。譲受人は、有償であれば税金は何もかかりません。
※譲渡所得税について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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表1:相続分の譲渡と課税される税金
6.相続放棄との違い
これまでの説明でも、相続分の譲渡と相続放棄の違いに触れてきましたが、以下で表にまとめました。どちらも相続の拒否ができるのですが、相続の状況によって最適な方を選択する必要があります。両者の違いを明確に理解する必要があります。
分割協議をする中で、何も相続しないことに同意して、署名捺印をすれば、「相続しない」ことは成立しますが、相続手続きには対処していく必要があり、煩わしさから完全に逃れることはできません。
煩雑な相続手続きから離脱するには、相続分の譲渡か、相続放棄を選択することになります。
※相続を拒否する理由別方法について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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表2:相続分の譲渡と相続放棄との違い
7.まとめ
相続分の譲渡とは、特定の方にご自身の法定相続分を譲ることであり、手続き自体は、相続放棄に比べ、簡単であることをご理解いただけたと思います。
ただし、亡くなられた方に負債があった場合には、たとえ相続分の譲渡をしても返済する義務を免れることはできないため、注意してください。プラスの財産より明らかにマイナスの財産が多い場合には、相続放棄の検討をされることをお勧めいたします。
プラスの財産の方が多いものの、マイナスの財産もあり、譲渡をしたいというような場合には、予め負債の取り扱いについて明記した「相続分譲渡証明書」を作成するなどの対策をおこなってください。
相続分の譲渡は、相続放棄のように3ヶ月以内にしなければならないといった期限の縛りはありません。遺産分割協議が成立する前であればいつでもおこなうことができます。たとえば、遺産分割協議が難航して、遺産分割調停に進んだあとからでも、相続分の譲渡をすることは可能です。
手続きとしては簡単な相続分の譲渡ですが、法定相続人であることに変わりはなく、相続税などの税金がかかる可能性があります。相続分の譲渡をすべきかどうか、税金を含め判断に迷う場合は、相続の専門の税理士にご相談されることをおススメいたします。