
内縁の妻に相続権がない?!財産を確実に受け取る方法と4つの注意点
内縁の旦那さまにもしものことがあった場合にどうすればよいのか。とご不安のことと思います。
事実上は夫婦のような関係でずっと暮らしていても、婚姻届を出していないため法律上では夫婦として認められません。内縁関係でも求められる権利や義務はありますが、相続に関する権利はありません。長年連れ添い内縁の旦那さまの財産形成に貢献してきたとしても、相続権が無ければ亡くなられた際には内縁の旦那さまの相続人がすべての財産を相続することになります。この状態では、将来のご自身の生活に不安がよぎります。
しかし、あきらめることはありません。相続する権利が無い内縁の妻でも財産を引き継ぐ方法があります。亡くなられる前に実施しておくことが最善ではありますが、亡くなられた後にできることも含めて確認し、どの対応がお二人にとって良いのか、検討いただければと思います。
Contents
1.内縁の妻には相続する権利が無い
内縁の妻に相続する権利が無いことはすでにご説明しました。結婚して妻となっていれば必ず相続人となりますが、お二人のいろいろなご事情から内縁の関係を続けられた場合、相続においてはとてもリスクが高くなりますので、対策をしておきましょう。内縁の旦那さまのご家族がご健在の場合、内縁の妻であるご自身が相続する割合はゼロですが、相続人の方は、たとえ疎遠であっても相続することができます。
図1:内縁の妻は相続人になれない
2.内縁の妻が相続する場合の立場と相続割合
内縁の妻は法律上では相続人になれませんので、相続が発生してしまうと他人として扱われてしまいます。
しかし、内縁の旦那さまと一緒に生活をしていた場合、いきなり住居を追い出されたりすると生活ができず困ってしまいます。相続の際のお立場を確認していただき、2章以降の対策を早めにおこないましょう。
図2:内縁の妻に相続権は無いが他に財産を受け取る方法がある
2-2.相続人が誰もいない場合でも相続できない
内縁の旦那さまのご家族が誰もいらっしゃらない場合でも、内縁の妻の立場で相続人となることはありません。もし、法律上の相続人が誰もいらっしゃらない場合には、「国庫に帰属する」とされていますので、財産は国のものとなってしまいます。ただし、この場合は3-2.でご説明する特別縁故者になれないか申し立てをしてみるとよいでしょう。
図3:相続人が誰もいない場合でも内縁の妻は相続できない
2-3.居住する権利は話し合い次第で保護される
内縁の旦那さまが購入された自宅に一緒に住んでいた場合、相続する権利が無いためその自宅は内縁の旦那さまのご家族の財産として相続されます。この場合に、ご自身の生活がご自身の収入によって安定していたのであれば安心ですが、内縁の旦那さまの稼ぎで生活をしていたとしたら大変です。内縁の旦那さまのご自宅は、相続人が相続すると出ていくように言われます。しかし、居住する場所がすぐに準備できるわけではありませんので、話し合い次第では当面住んで良いという権利を認め、保護される傾向があります。
2-4.子どもがいる場合は認知か養子縁組をする
内縁の旦那さまとの間にお子さんが生まれた場合には認知をしてもらうことで、お子さんには相続する権利が生まれます。また、近年は離婚したあと再婚するのではなく内縁関係の状態でお子さんも一緒に生活をされる方が増えています。この場合に、内縁の旦那さまと連れ子にあたるお子さんが養子縁組をするとお子さんには相続権が生まれます。認知・養子縁組のいずれにしても、相続人がこのお子さんだけであれば財産を100%お子さんが相続できます。
内縁関係であっても家族として築き上げた財産を相続する一つの方法として、お子さんがいらっしゃる場合には検討されると将来の不安が無くなります。
図4:連れ子を養子縁組すると相続権が生まれる
3.内縁の妻が財産を確実に受け取る方法は生前贈与だけ
「もしものことがあったら財産はすべて受け取ってね」と内縁の旦那さまが話をしていたとしても、1章のとおり内縁の奥さまであるご自身には相続権が無く、実際には相続することができません。また、3章でご説明しますが、生前に遺言を作成した場合でも財産を100%受け取ることはできません。もし、確実にすべての財産を受け取る場合には、贈与税は発生するものの生前贈与がお勧めです。
3-1.生前に贈与で財産を受け取る方法
生前贈与は、内縁の旦那さんとご自身の間で財産を譲ること、財産を受け取ることの双方に合意があれば誰も止めることはできませんし、のちに法律で無効にすることもできません。相続が発生した際にも、財産を相続財産として戻す必要もありません。ただし、相続開始1年前の贈与については遺留分の対象財産に含まれることや、強引に贈与について合意を迫った場合などは無効となります。計画的に双方の意思を大切にした生前贈与を進めることが大切です。口約束であった場合には相続時に財産を受け取れる可能性が低いため、ご健在なうちに贈与の契約を交わして、手続き等もしっかりと済ませておきましょう。
図5:贈与は双方の合意があれば成立する
3-2.贈与の非課税枠を活用しよう
例えば1,000万円の貯蓄を内縁の旦那さまから受け取ることを考えてみます。
非課税で受け取る場合には、毎年100万円ずつ10年にわたって贈与を受けることで実現できます。これを暦年贈与と言います。
一方で、1,000万円を一括で受け取りたい場合には、贈与税の申告と納税が必要となりますが、すぐに銀行からの振込み手続きをすれば受け取ることができます。
また、不動産等の財産を婚姻関係にある妻が受け取る場合には、おしどり贈与と言われている配偶者の非課税枠等を活用できますが、内縁の妻は第三者と同様の扱いになり非課税枠が利用できません。
3-3.預金を口座に移したら贈与契約が必要
内縁の旦那さまの余命が分かったあと、二人で築いてきた財産だとして内縁の旦那さまの口座からご自身の口座へ預金を移した場合には、合意の上であれば贈与として扱います。しかし、亡くなられる直前に移動した場合には、贈与契約書が無いと勝手に移したとして相続人から返金を求められる場合があります。亡くなられた後に意志を確認することができませんので、可能な限り元気なうちに贈与契約書の作成と署名・捺印をしておくことがとても大切です。また、年間110万円を超えた場合には、必ず贈与税の申告をしましょう。
図6:贈与契約書を作成しておく
3-4.贈与の口約束や口頭契約には要注意
贈与契約は口頭でも成立します。とても簡単ですが、口頭で成立した贈与契約は撤回もいつでも自由にすることが可能です。一方、書面にて交わされた贈与契約は自由に撤回することはできません。よって、贈与契約の内容がきちんと実施されるためにも、必ず書面に残して署名と捺印をされることをお勧めします。
※相続の口約束について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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4.相続が発生した際に内縁の妻が財産を受け取れる2つの方法
すでにご説明したとおり内縁の妻の立場では相続する権利が一切ないことがお分かりいただけたと思います。しかし、相続が発生した際にご自身が相続できるケースがあり、それは遺言が作成されていた場合と、特別縁故者として認められた場合です。
4-1.遺言があれば財産を受け取ることができる
遺言書が作成されていれば、法律で定められた相続人である法定相続人以外の方も財産を受け取ることができます。遺言により第三者が財産を受け取ることを遺贈といいます。財産を遺贈してもらう場合には必ず遺言書が必要です。遺言書には遺贈する相手である内縁の妻の氏名、住所、そして財産を遺贈するという内容が必ず記されている必要があります。
遺言書の書き方には細かな決まりがあり、書き方が間違っているとその遺言書が無効となってしまいます。よって、自筆証書遺言という内縁の旦那さまに自ら書いていただく遺言もありますが、内容を正しく書いていないと無効となってしまいますので、公証役場にて公正証書遺言を作成していただくようにお話をされ、誤りや紛失の心配も無く遺言書を用意できて安心であることをお伝えしましょう。
※遺贈について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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※自筆遺言書の書き方について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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図7:遺贈ができるように遺言書を作成しておく
4-1-1.相続人の遺留分を確認しておく
「私の財産はすべて内縁の妻へ遺贈する」と書かれていたとしても、実際に相続人となる方がいた場合に、その相続人が相続できる財産はゼロという訳にはいきません。相続人は法律で最低限相続できる権利である遺留分の権利が保証されています。相続人の方と全く面識が無かったり、疎遠であっても権利には変わりがありませんので、請求された場合には支払う義務があります。
※遺留分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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4-1-2.遺留分減殺請求を受けたらすぐに対応する
遺言では3-1-1でご説明した遺留分を侵害しているケースは珍しくありません。これは遺言を作成する方が遺留分について知らずに作成をしている場合も、意図的な場合もあります。この遺留分減殺請求については裁判所等への申し立てではなく、財産を譲り受けた方へ直接請求することになります。もし請求がきた場合には遺留分を持つ相続人の方の気持ちに配慮し、遺留分の財産が相続できるように対応しましょう。
4-2.特別縁故者になり財産を受け取る
「法定相続人がいない場合には国庫に帰属する」というルールのもと、内縁の妻の立場では相続人が一人もいないような状況でも相続する権利はありませんでした。しかし、相続人が一人もいない状況の場合、亡くなられた方の世話を日常的に行ってきた方や、内縁の妻として生計を同一にしてきた方などが、特別縁故者として財産を相続することができる可能性があります。ただし、認められたとしても配偶者としてではなく特別縁故者として認められることから、相続税の配偶者控除等が受けられず、相続税も2割加算の対象となります。また、特別縁故者として認めてもらいたい方が、家庭裁判所へ特別縁故者の申立をし、認められることが必要です。
図8:特別縁故者として財産を引き継ぐまでの流れ
4-2-1.特別縁故者の条件
特別縁故者となるためには3つの条件があり、いずれかを満たしている必要があります。
条件①亡くなられた方と生計を同じにしていた方
条件②亡くなられた方の療養看護に努めた方
条件③その他亡くなられた方と特別な縁故があった方
【条件①】亡くなられた方と生計を同じにしていた方
亡くなられた方の内縁の妻として長年生活を共にしていた方や、養子縁組をしていなくとも事実上の養子として一緒に生活をしていたお子さんが該当します。
【条件②】亡くなられた方の療養看護に努めた方
亡くなられた方を介護や看護をしていた方が該当します。よって、同居をしていた内縁の妻は、介護や看護にあたっていた可能性が高いことから、特別縁故者として認められる可能性も高くなります。
【条件③】その他亡くなられた方と特別な縁故があった方
亡くなられた方と生前に密接な関係であった方が該当します。仮に同居をしていない場合でも、亡くなられた方が生前に財産を譲るなどの話をしていたり、財産を引き渡すことが亡くなられた方の意思だろうと思われる場合に認められます。
4-2-2.家庭裁判所へ申立てをする
特別縁故者に必要な3つの条件を満たしていると考えられる場合には、ご自身で家庭裁判所に対して特別縁故者の申立てを行います。申立書は、亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ提出します。
特別縁故者の申立書は裁判所のホームページよりダウンロードできます。
http://www.courts.go.jp/vcms_lf/21m-betsu1.pdf
図9:特別縁故者の申立に関するまとめ
5.内縁の妻は遺族年金を請求する権利がある
亡くなられた方の遺族年金については、「残された遺族の生活の保障のためにあるもの」という考え方から内縁の妻が請求する権利を持つことになります。婚姻関係にある配偶者以外でも条件を満たせば受取ることができます。ただし、遺族年金は請求をしなければ支給されることはありません。必ず手続きが必要です。実際の請求手続きには、細かな要件を確認したり、書類を作成したりする必要がありますので、社会保険労務士などの専門家に一度ご相談されると良いでしょう。
条件①:未入籍だが事実上婚姻関係と同様の状態にある方
条件②:生計維持に関係がある方
条件③:亡くなられた方の前年の収入が850万未満または前年の所得が655.5万未満 ほか
6.さいごに
内縁の妻には相続権はありません。
内縁の妻が財産を受け取るには、生前に贈与を受けることが最適ですが、すべての財産を生前に贈与してもらうことも現実的には難しいでしょう。よって、遺言を作成していただき、遺贈ができるようにしてもらえるとその後の生活も安泰です。
また、事前に対策を施していない場合には、なにも相続できないというつらい現実がありますが、特別縁故者になると財産を相続することができます。ただし、相続人が誰もいないことや、その他条件を満たしている必要があります。また家庭裁判所の審判が必要となり、直接裁判所へ出向くことや、最終的な判断が下されるまでに1年から2年かかる場合もあります。
内縁関係のご夫婦のご意向に沿うような財産の引継ぎ方を望まれるなら、理想は生前に贈与や遺言書の準備を万全にしておくことです。
贈与や遺言書、遺族年金など手続き上ご不明な点などありましたら、一度相続を専門としている税理士など専門家にご相談されることをお勧めします。