
【相続税の納税義務者】すぐわかる!相続税を支払う義務は誰にあるか
相続が開始して遺産分割協議も終わり、亡くなられたお父さまの財産は無事に相続ができそう。
「ところで、相続税の納税をしなければいけないけれど、誰が納税するのだろうか?」
「次男は遺産分割協議の中で、財産を相続しないことになったが、納税は必要だろうか?」
「お母さんは海外に住んでいるが、相続税は支払うのだろうか?」
このように相続税の納税義務者とは、いったい誰のことを指しているのか、疑問があるかと思います。相続人だから全員が「相続税の納税義務者」になるわけではなく、相続人ではない方が相続で財産を受け取れば、もちろんその方が相続税の納税義務者になります。
また、近年は仕事をリタイアした後の人生を海外で過ごす人が非常に増えており、その理由の一つに相続税対策がありますが、平成29年度の税制改正において、海外を利用した相続税対策が容易に利用できないような改正がされています。
相続税の納税義務者について、対象となる相続財産を含めてご確認ください。
Contents
1.相続税の納税義務者とは相続税の納税が必要な場合にだけ考える
相続税を納めるべき人のことを「納税義務者」といいます。
相続税の申告が必要な方の割合は全体の約8%であり、約92%の方は相続税の申告は必要ありません。相続税の納税義務を考える必要がある方は、この申告が必要な約8%の方になります。申告が必要な方の中でも、特例等を利用して相続税の納税が不要な方と、相続税の納税が必要な方に分かれます。この相続税の納税がが必要な場合に限り、納税義務者について知る必要があります。
1-1.基礎控除以上であれば、相続税の申告・納税を確認
相続税の申告が必要か、つまり先に説明した約8%に該当するかどうかの判断基準を「基礎控除」といいます。この基礎控除を下回る財産額であれば必ず相続税の納税義務者には該当しないため、一つの基準として利用すると便利です。この基礎控除を上回る場合には、相続財産を評価して相続税の申告だけで良いのか、納税が必要なのかを確認します。この判断は複雑な知識を有するため、相続税を専門とする税理士に依頼することをおススメします。
※「基礎控除」について詳しくは、次の記事を参考にしてください(当サイト内)
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図1:相続税の課税対象は基礎控除以上の財産があるとき
図2:基礎控除額の考え方
1-2.相続した財産の割合に応じて各自が納税義務者となる
相続税の納税義務は、相続人であるかどうかにかかわらず財産を受け継いだ方全員にあります。つまり法律で定められた法定相続人でなくても財産を相続された方は納税義務者になりますし、法定相続人であっても相続財産を受け取らなかった場合には納税義務者にはなりません。
2.相続人以外も確認!相続税の納税義務者となる4つのケース
相続税の納税義務者は1章でご説明したとおり「亡くなられた方から財産を受け継いだ方全員」です。先に記載のとおり、法定相続人であっても、それ以外であっても財産を受け継いだ方は全員が納税義務者となります。
大きく分けて4つの納税義務者がありますので、今回のご相続に該当する方がいるかどうか、確認をしましょう。
2-1.「相続」によって財産を受け継いだ「相続人」
一般的には、亡くなられた方の財産は法律で定められた法定相続人が相続をします。この法定相続人が相続する財産の割合は、法定相続分という割合で定義されており、一般的にもこの割合で分割することが多くなります。法定相続分を基準に相続をした場合で相続税の納税が必要なときには、法定相続人の方が納税義務者となり、法定相続分に沿った割合の相続税を納税する必要があります。
もし、話し合い等で相続する割合を変更した場合には、実際に相続した取得割合に応じて納めることになります。
※「法定相続分」について詳しくは、次の記事を参考にしてください(当サイト内)
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2-2.「遺贈」によって財産を受け取った「受遺者」
亡くなられた方が生前に遺言を作成しており、孫やお世話をしてくれた長男の嫁など法定相続人以外の方に財産を譲る意思を残している場合です。このように、相続が発生して遺言どおりに法定相続人以外の方が財産を受け取ることを「遺贈」といいます。財産を受け取った方は「相続人」とは言わず「受遺者」と呼ばれ、相続税の納税が必要な場合には納税義務者となります。
図3:遺贈のイメージ
※「遺贈」について詳しくは、次の記事を参考にしてください(当サイト内)
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2-3.「死因贈与」によって財産を受け取った「受贈者」
亡くなられた方が生前に特定の第三者の方と「自分にもしものことがあったら(亡くなったら)、財産を無償であげる」などと約束していた場合にはこれを「死因贈与」と言います。ただし、一方的な思いでも財産を渡すことができる遺贈と異なり、相手との契約が必要になります。つまり、財産を受け取った方は「受贈者」となり、相続税の課税がある場合には納税義務者となります。
図4:死因贈与のイメージ
2-4.相続で財産を受け取った「法人」
遺贈や死因贈与において、財産を受け取る方は個人だけでなく法人でも可能です。この場合は「相続税ではなく法人税」を納税することになりますが「相続が原因の納税義務者」に該当します。
3.多様な相続。納税義務者には2つの種類がある
近年は家族の構成も多様化しており、いろいろなケースの相続があります。相続対策で海外に資産を保有される方、海外に移住をしている方、外国人の方とご結婚される方、または外国人の方が日本に移住して、財産を所有するなど様々です。このような状況の中、平成30年度の税制改正から納税義務者の考え方が厳しくなるとともに、複雑になりました。
相続税は受け取った財産すべてに課税される場合と、日本国内にある財産にのみ課税される場合があります。納税義務者はこの2つのパターンのうち、必ずどちらかに該当することになります。
図5:納税義務者と納税範囲のイメージ
※1 在留資格があり過去15年以内において国内に住所を有していた 期間の合計が10年以下
※2 日本国籍のない者で、過去15年以内において国内に住所を有していた期間の合計が10年以下のもの
3-1.海外居住者・海外財産保有者が増えている
相続税の納税義務者を考えるにあたっては、住んでいる国やその国の在籍年数で、対象となる相続財産が異なってきます。図6のように平成29年度の外務省の統計では約134万人もの方が海外に居住されていることから、納税義務者の判断が必要なケースが増えています。
図6:海外在留邦人数推移(出典/外務省「海外在留邦人数調査統計」より編集)
3-2.すべての財産に課税される「無制限納税義務者」
無制限納税義務者に該当する方は相続や遺贈で受け継いだ財産のすべてに対して相続税が課税されます。この場合の「すべて」というのは、受け継いだ財産の所在場所を問わないという意味であり、国内財産のほか、国外にある財産を受け継いだ場合も日本の相続税が課税されます。
以下の3つのいずれかに該当すれば「無制限納税義務者」となります。
図7:無制限納税義務者のパターン
3-3.国内の財産のみ課税される「制限納税義務者」
亡くなられた方、及び財産を受け取る方の双方がともに、直近の10年間で一度も日本に住所がない場合は「制限納税義務者」となり、日本の国内に所有している財産にだけ、相続税が課税されます。制限納税義務者が、国外所有の財産も受け継いだ場合は、日本の税法ではなく、外国の税法により相続税が課税される場合があります。法律は各国で様々であるため、該当する国の税法をご確認ください。
図8:制限納税義務者のパターン
4. 国外財産に対し、外国の相続税を支払った場合は「外国税額控除」を受ける
国外に財産を所有している方が亡くなられた場合、相続手続きや相続税に関することは通常よりも煩雑化してしまいます。相続財産の評価額にもよりますが、場合によっては外国の相続税を支払うケースが生じます。
しかし、日本の相続には「外国税額控除」という制度があり、ひとつの財産に対して日本と外国の相続税を重複して負担することがないよう、一定額まで控除するという配慮がなされています。つまり、外国の財産に対してその国の相続税が課税された場合、その課税分は日本の相続税から控除されます。
5. どこの国の財産?財産の所在を決める判断基準
制限納税義務者は受け取った財産のうち、日本国内に所有するものだけに課税されるので、財産が国内に
あるのか、国外にあるのかという所在を明確に判断する必要があります。法律では、財産の種類に応じて
所在を判断する規定が設けられています。
表1:財産の所在の判定の表 ※国税庁ホームページ「財産の所在の判定の表」より引用
財産の種類 | 所在の判定 |
---|---|
動産 | その動産の所在による |
不動産または不動産の上に存ずる権利 船舶または航空機 | その動産の所在による 船舶または航空機を登録した機関の所在による |
鉱業権、租鉱権、採石権 | 鉱区または採石場の所在による |
預金、貯金、積金または寄託金で次に掲げるもの (1)銀行、無尽会社または株式会社商工組合中央金庫に対する預金、貯金または積金 (2)農業協同組合、農業協同組合連合会、水産業協同組合、信用協同組合、信用金庫または労働金庫に対する預金、貯金または積金 | その受入れをした営業所または事業所の所在による |
生命保険契約または損害補償契約などの保険金 | これらの契約を締結した保険会社の本店または主たる事務所の所在による |
退職手当金等 | 退職手当金等を支払った者の住所または本店若しくは主たる事業所の所在による |
貸付金債権 | その債務者の住所または本店若しくは主たる事務所の所在による |
社債、株式、法人に対する出資または外国預託証券 | その社債若しくは株式の発行法人、出資されている法人または外国預託証券に係る株式の発行法人の本店または主たる事務所の所在による |
合同運用信託、投資信託および外国投資信託、特定受益証券発行信託または法人課税信託に関する権利 | これらの信託の引受けをした営業所または事業所の所在による |
特許権、実用新案権、意匠権、商標権等 | その登録をした機関の所在による |
著作権、出版権、著作隣接権 | これらの権利の目的物を発行する営業所または事業所の所在による |
上記財産以外の財産で、営業上または事業上の権利(売掛金等のほか営業権、電話加入権等) | その営業所または事業所の所在による |
国債、地方債 | 国債および地方債は、法施行地(日本国内)に所在するものとする 外国または外国の地方公共団体その他これに準ずるものの発行する公債は、その外国に所在するものとする |
その他の財産 | その財産の権利者であった被相続人の住所による |
6.さいごに
相続税の納税義務者についてご理解は深まりましたでしょうか。
相続財産を「遺贈」で受け取った場合などは相続財産の全体感がつかめず、基礎控除額を超えており相続税の納税が必要かどうかなど、納税義務があるのかどうかの判断ができない場合もあります。また、海外の財産については評価することも難しいと思います。
日本における相続税の申告(納税)期限は10ヶ月以内です。あっという間に過ぎてしまいますので、早めに相続税の申告・納税の準備を進めましょう。特に相続において海外が関係してくると余計に時間を要します。
相続税の基礎控除を超えそうな場合には、できるだけ早めに相続税の申告の経験が豊富な税理士の方にご相談されることをおすすめ致します。