
相続税は債務控除の減額を忘れずに!債務控除の対象と非対象のまとめ
相続が発生して財産内容を確認していると、「どうやら相続税がかかってしまいそうだ・・・」
こんなとき、財産の中には財産価値が高いものと未払い金などの精算や借金の返済が一部残っている場合があり、財産と負債を何とか相殺できないかと思われていることかと思います。
支払いが確定しているものを支払うと、亡くなられた方の財産が減少するため、相続税の計算で考慮してほしいものです。そこで利用できる考え方が、相続税の「債務控除」という考え方です。
この「債務控除」により債務控除の対象となる金額分は、相続税の対象とはならなくなりますが、債務控除にはいろいろとルールがありますので、本記事を参考にして、債務控除できるものを適切に判断していただければと思います。
Contents
1.相続税の債務控除に該当するものは相続財産から差し引ける
相続財産に借金や負債などのマイナスの財産が含まれる場合、相続税の計算をする際に預金や不動産などのプラスの財産からマイナスの財産を差し引いて考えることができます。
この相続税の計算の過程で、相続財産から負債などのマイナスの財産を差し引くことを「債務控除」といいます。
債務控除の対象となるマイナスの財産は、すでに支払いが確定している債務だけとなります。
本来は亡くなられた方が支払うべきであったものが対象となりますので、すでにその支払いが確定したものとなります。判断が難しいものもありますので、2章、3章で詳しくご説明します。
図1:相続税の計算をする際の債務控除のイメージ
図2:基礎控除額の考え方
※法定相続分について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2.相続税の債務控除ができる3つの分類
債務控除は亡くなられた方が本来は支払うべきだった費用が対象となります。
1つは支払うべきお金を支払わないまま亡くなられた場合、もう1つはどこかからお金を借りしていて本来は
返済しなければならない借金がある場合、最後は亡くなられた方が本来支払うものではありませんが、亡くなられた方の財産から支払ってもよいとされている葬儀関係の費用です。
この主に3つの分類について、考え方をご説明していきます。
図3:控除対象となる債務は3つの分類に分けられる
2-1.分類①:亡くなられた方の未払金
水道光熱費の支払いが滞っていた、病院に行き後日支払いとなっていた、固定資産税の納付書が届いているが未払いだった、というような場合が該当します。
2-1-1.生活費の未払い分
光熱費や電話代などの支払いは、ほとんどの場合が後払いのため使用した分を翌月に支払うことになります。よって、亡くなられた方が利用した分の未払い分については、少額な支払いを含めて債務控除の対象となります。
注意点としては、亡くなられた当日以降の使用分は亡くなられた方の債務ではなく、相続人の費用負担となります。亡くなられた時点から財産は相続人全員のものとなっていますので、亡くなられた翌日以降の使用分は債務控除の対象外となります。亡くなられた後も引き続き光熱費が発生している場合は細かい話となりますが日割り計算をする必要があります。
図4:生活費系の債務控除の対象の考え方
2-1-2.医療費の未払い分
病院への入院期間が長かったり、亡くなる直前に手術をしていたり、最後のときを病院で迎えられたりした場合、亡くなられた後に未払い分の医療費を相続人の方が支払うことになります。この費用はもちろん亡くなられた方の財産から支払ってもよいのですが、金融機関の口座が凍結されている場合には、立て替えて支払うこともあります。
このような場合、医療費は本来亡くなられた方が支払うべきものであったため、債務控除の対象です。
また、亡くなられた方の生前の医療費は準確定申告における医療費控除の対象となりますので、所得税の減税対象にもなります。特に高額な医療費を支払った場合には、忘れずに準確定申告で控除しましょう。
表1:医療費の控除について
2-1-3.税金の未払い分
固定資産税、所得税、住民税の納付通知書が届いているが未納分があった場合も、亡くなられた方に代わって相続人の方が支払いますので、この未納分はもちろん債務控除の対象となります。
医療費や所得税は準確定申告もしますが、相続税の債務控除の対象にもなります。
表2:債務控除できる税金の詳細
2-2.分類②:借金やローンの借入金
亡くなられた方に借金やローンなどの借入金があった場合、この借入金は本来亡くなられた方が借り入れたものですので、亡くなられた方が本来支払うべきものですので債務控除の対象となります。
借入金がある場合には、相続放棄するかどうかの判断も必要でありますが、相続すると決めた場合にはその返済を相続人の方が引き継がなくてはなりません。また、住宅ローンなどを支払っている途中で亡くなられた場合に、保険等が適用されず支払いが継続される場合には同様です。
これらの債務は債務控除の対象となりますが以下2点の注意が必要です。
2-2-1.亡くなられた日時点での明確な債務
亡くなられた日の時点で明確な債務とは、借金などの借り入れをしている金額や、住宅ローンなどの返済額が確定しているものになります。
よって、亡くなられた方が知人の借金の連帯保証人になっていたような場合は注意が必要です。
知人の方が返済できなくなった場合は連帯保証人が代わって返済する義務を負います。亡くなられた方が保証人となっている場合には保証人としての義務を引き継ぐため、その知人の方がいずれ返済できなくなった場合には債務を負うことになりますが、その金額は債務控除の適用外となります。
また、亡くなられた時点の知人の借金額は確認できますが、その時点では債務を負っていないため債務控除の対象とはなりません。
債務控除の対象となる債務は、相続が発生したその時点で確実に亡くなられた方の支払い義務が生じている債務のみであり、まだ支払いが明確でない債務は、例えこのあと債務になって降りかかってきたとしても控除の対象にはなりません。
2-2-2.不動産ローンの持分に対する債務
住宅ローンなどローンを組んでいる場合には、持ち分を確認します。
ご夫婦の共有名義で住宅ローンを組んでいた場合、登記された持分を確認してみると毎月のローンの返済の内訳が分かります。金融機関との契約書等では分からないことも多いため、登記の確認が最適です。
もし、団体信用生命保険(団信)などの保険に入っている場合には、亡くなられた方の持ち分の返済は亡くなりますので、債務もありません。しかし、保険等に加入していない場合には、亡くなられた方の持ち分で計算したローン残債が債務となります。
利子も合わせて債務となりますので、忘れずに確認します。
図5:住宅の持ち分と住宅ローンの債務控除の考え方
2-3.分類③:葬儀関係の費用
お葬式の費用は、当然、亡くなられた方の債務ではありませんが、日本の慣習として相続に伴って必然的に支出する費用であることから、例外的に債務控除の対象となります。
お葬式は地域性や宗派などによって相場に違いはありますが、債務控除の対象になるかどうかについては、細かな取り決めがあります。どのような費用が控除対象となるのか、次の表でご確認ください。
また、通常、領収書が発行されないお布施などの費用に関しては、メモ書きで構いませんので記録を残しておいてください。
表3:債務控除できる葬式費用
表4:債務控除できない葬式費用
※葬儀費用の取り扱いについて詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3.相続税の債務控除できると勘違いしがちな費用
債務控除は、本来は亡くなられた方が支払うべきだった債務や、相続を理由に必然的に支払うことになった金銭が控除の対象になることをご説明してきました。
すでに、葬儀費用については取り扱い方が特別であることから勘違いしそうな費用についてはご説明しましたが、実際の未払い金や借入金については、次のような項目が勘違いしがちです。
心情的には債務控除の対象に含めたいものも多くありますが、残念ながら控除の対象にはなりません。
【債務控除の対象とはならないもの】
(1)団体信用生命保険で補填される住宅ローン
(2)お墓などの非課税財産で未払いのもの
(3)支払いが確定していない保証債務
(4)相続を理由に支払いが生じた次の費用
→不動産登記に係る費用(登録免許税、報酬など)
→分割協議や申告にかかる費用(報酬など)
→戸籍謄本などを取得するための諸費用
→遺言執行報酬 など
4.相続税の計算における債務控除の使い方
1章の冒頭で、相続税の計算の過程で、相続財産から負債などのマイナスの財産を差し引くことを「債務控除」というとご説明しました。
預金や不動産などのプラスの財産と、未払い金や借入金などのマイナスの財産はどのように考えていけばよいのかについてご説明します。
4-1.基礎控除以下であれば考える必要がない
債務控除を考える必要があるケースとは、相続財産が基礎控除額を超えるような場合です。
基礎控除額は図2でご紹介したとおり、3,000万円+(相続人の数×600万円)となります。これは相続税の申告が必要かどうかの判断基準となりますので、もしプラスの財産だけを計算してこの金額を上回らなければ相続税の申告は不要ですので、債務控除について考える必要はありません。
相続税の基礎控除の早見表を使って、相続税の申告の対象であるか確認しましょう。
表5:相続税の基礎控除額の早見表
【例①】
亡くなられた方:お父さま
相続人:お母さま・長男・長女
プラスの財産:3,000万円
マイナスの財産:500万円
基礎控除額:早見表から3人の場合は、4,800万円
以上から、4,800万円>3,000万円のため、相続税も債務控除も考えない
4-2.債務控除を使って基礎控除額以下になれば申告不要
次にプラスの相続財産を計算した結果、相続税の基礎控除額を超えた場合の考え方です。
まずはプラスの財産が基礎控除額を超えたが、債務などマイナスの財産を差し引いたら基礎控除額以下になった場合です。
この場合は、債務を差し引いたら基礎控除額以下になれば4-1と同様に相続税も債務控除も考える必要は
ありません。
【例②】
亡くなられた方:お父さま
相続人:お母さま・長男・長女
プラスの財産:5,000万円
マイナスの財産:500万円
基礎控除額:早見表から3人の場合は、4,800万円
以上から、4,800万円<5,000万円となるが、
5,000万円-500万円=4,500万円
よって、4,800万円>4,500万円となるため、相続税も債務控除も考えない
4-3.申告が必要な場合は相続財産から債務を引く
最後に、プラスの財産からマイナスの財産を差し引いた結果、基礎控除額を超えた場合です。
この場合は1円でも基礎控除額を超えれば相続税の申告が必要です。また、債務が無い場合には基礎控除額を超えたプラスの財産に対して相続税がかかりますが、債務がある場合にはその分を引いた財産額に相続税がかかることになります。
【例③】
亡くなられた方:お父さま
相続人:お母さま・長男・長女
プラスの財産:8,000万円
マイナスの財産:500万円
基礎控除額:早見表から3人の場合は、4,800万円
基礎控除額を超えた金額から負債を引きます。
この負債を引いても良いという考え方が債務控除です。
8,000万円-4,800万円(基礎控除額)-500万円(負債)=2,700万円
よって、2,700万円に相続税がかかる
図6:具体的に債務控除を適用するイメージ
5.さいごに
相続税の債務控除についてご理解いただけましたでしょうか。
相続税の債務控除考える場合には、まずは相続税の申告の対象者であることが必要でした。
基礎控除額を超える財産があるかどうか最初に確認することが大切です。
相続税の対象であれば、亡くなられた日に確定している債務については控除できるため適切に差し引くことで相続税を減額することができます。
債務控除の対象となる財産は、2章でご説明した未払い金、借入金、葬儀費用です。
3章では債務控除の対象だと勘違いしがちなものを確認していただきました。
相続税の申告が必要な方は債務控除を使っていきますが、相続財産の評価方法や相続税の申告で利用する特例など、相続税の申告が必要となると専門的な知識を要することが多くなります。
また、相続税の申告が必要かどうかギリギリの場合にもご不安になるかと思います。
そんな場合には、ぜひ相続専門の税理士にご相談されることをおススメします。
最後に、債務控除については相続人の方の把握力によって変わる部分も大きくなります。亡くなられた方宛の郵便物の整理や、代わりに支払った領収書類の保管を徹底していただければ必ず役に立ちます。