
相続税の修正申告とは?税務調査で指摘される前に自ら申告すべき理由
「相続税の申告をしたけれど、後から自宅に現金が見つかったけど、申告期限を過ぎているしどうしたらいいのかなぁ。」
「自分で相続税の申告書を作成して提出したけれど、税務調査があると聞いて不安だなぁ」
相続税の申告は亡くなられた日の翌日から10ヶ月以内と決まっていることから、その間に終わらせられるように急ぎ対応をされたことと思います。
しかし、相続税の申告書を提出し納税も行なった後で、新たな財産が見つかった場合や相続税の計算が間違っていて追加で納税が必要であることに気付いた場合など、このような場合には早期に相続税の修正申告が必要となります。自ら修正申告をした場合にはペナルティも最小限に抑えられます。
相続税を少なく納めた場合、税務調査の対象になることがあります。
実際には、平成28事務年度において税務調査が行われた案件の約82%で申告漏れが指摘されており、追徴税額が700億円を超えています。
相続税の申告に関わるこの間違いに気づくケースは、ご自身で気付く場合だけでなく、このように税務署のチェックや税務調査で誤りを指摘されて気付く場合もあります。
相続税の修正申告が必要となりやすい財産や、修正申告の方法についてもご説明をしますので、内容を確認していただき早めに対応をしましょう。
もし、相続税を多く納めてしまって修正申告をすることで還付を受けたいと思われている場合には、修正申告ではなく更正の請求となります。
更正の請求は1-2でご説明します。
Contents
1.相続税の修正申告とは納めた納税額が少ない時の再申告
相続税の申告書を提出し納税も行なった後で、新たな財産が見つかった場合や相続税の計算が間違っていて追加で納税が必要であることに気付いた場合など、相続税の修正申告が必要となります。納めた税額が少なかった場合の対応が「修正申告」となります。
期限内に相続税の申告をしたものの、このような場合には修正申告が必要となります。
(1)相続税の申告時に見つからないと思って申告しなかった財産がある
(2)相続税の申告後に新たな財産が見つかった
(3)相続税の申告書の内容に間違いがあって相続税を少なく納めていた
もし、相続税を多く納めてしまって、還付を受けたい場合「更正の請求」の手続きをします。
1-1.(修正申告)納めた相続税が少なかった場合の再申告
すでに申告した内容に誤りがあったり、申告後に財産が見つかった場合など申告内容が財産に対して過少であったことに気付いた場合、もしくは税務調査により誤りを指摘されて正しい申告にあらためる場合には「修正申告」の書類を作成し提出します。
修正申告は特に期限はありませんが、気付いたら出来る限り早く申告しましょう。修正申告には通常の申告書と異なり専用の「修正申告書」があるので、それに記入して税務署に提出します。修正申告書を提出するケースとしては、期限内に遺産分割ができず一旦申告と納税をしたのちに分割が決定した際に追加で納税する必要がある場合や、自分で間違いに気づいた場合なども含まれます。なお、税務署から税務調査の通知を受ける前に自主的に修正申告を提出した場合は、加算税が免除されますので、気づいたら速やかに修正申告を行うことが得策です。
1-2.(更正の請求)納めた相続税が多かった場合の減額の請求
すでに申告した内容について、納税した税額が過大であった場合には減額更正を求める手続きができます。更正の請求をする場合には、 原則5年以内にその請求に係る更正前と更正後の課税価格又は税額等の申告書と、その更正の請求をする理由、その請求をするに至った事情の詳細など、参考となるべき事項を記載した更正請求書を作成して提出します。くわえて、更正の請求の理由の基礎となる「事実を証明する書類」を添付し、税務署長に提出します。
2.相続税の修正申告が発生しやすい財産ランキング(国税庁データ)
国税庁が公表した相続税の調査状況から修正申告の必要性を確認します。
平成27事務年度における相続税の調査状況によると、25年に発生した相続を中心に11,935件の税務調査が行われ、そのうち9,761件に申告漏れ等がありました。その申告漏れ課税価格は3,004億円(1件当たり2,517万円)で追徴税額は583億円(1件当たり489万円)でした。
平成28事務年度における相続税の調査状況では、25年に発生した相続を中心に12,116件の税務調査がが行われ、そのうち9,930件に申告漏れがありました。その申告漏れ課税価格は3,295億円(1件当たり2,720万円)で追徴税額は716億円(1件当たり591万円)でした。
申告漏れがあった相続財産の主なものは次のとおりです。
図1:主な申告漏れ財産の金額と構成比
上記のように税務調査が行われた場合、80%以上の高い確率で申告漏れが指摘されることとなります。
そこで、ここではもう一度見直したい、見落としやすい申告についてご紹介します。
※税務調査について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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3.相続税の修正申告が必要となる4つのケース
相続税の修正申告が必要となる4つのケースをご説明します。これら該当する場合にはすぐに相続税の修正申告を提出できる準備を開始し、1日でも早く修正申告を提出されることをおススメします。
3-1.相続財産の漏れ
相続財産をすべて確認して財産を把握する必要があります。相続財産を把握するために次のものがないか良く探しましょう。また、あわせて未申告を指摘された例を確認しましょう。
(1)権利書
(2)通帳
(3)証書
(4)印鑑
(5)会社の申告書
(6)元帳
(7)議事録 など
3-2-1.ばれないと思って隠していたことがある、大丈夫だと思って放置したものがある
一例を記載します。
(1)財産を確認している途中に、タンスの中に多額の現金を見つけたが内緒にしている
(2)亡くなった方の趣味が骨董品集めだが、ガラクタと勝手に判断して話題にしなかった
(3)証券会社からの資料があったが、株のことは分からないので放置した
(4)3年以内に贈与を受けたが、贈与税の申告をしたので話題にしなかった
3-2-2.まさかこれを指摘されるとは思っていなかった
一例を記載します。
(1)生活に必要な資金として、保育園代の補填8万円/月を3年分まとめてもらった
(2)2年前に車や家を購入する際の頭金として、それぞれ150万円ずつ出してもらった
(3)毎年子どもの誕生日に、贈与税の非課税枠である110万円ずつ口座に振込みをしてもらっている
(4)土地の仕様用途が間違っていた
3-2.財産評価の間違え
土地は、その形状や周囲の状況等に応じ評価額を決定しますが、不整形地、がけ地、間口狭小、広大地など評価するにあたり検討すべき項目も多く、金額も多額になることから、相続税計算に多大な影響を及ぼす財産となります。税理士に相続税の計算と申告を依頼した場合であっても、それぞれ評価が異なることが多い項目です。評価額に不安がある場合は、再評価の依頼をお薦めします。
3-3.財産の特例の適用の誤り
配偶者の相続税は、配偶者の税額軽減制度(配偶者控除)などにより軽減されます。配偶者控除では、法定相続分または課税価格1億6,000万円までの財産を相続しても相続税が課税されま
せん。また、小規模宅地の特例では被相続人の配偶者や同居している親族が、マイホームなどの土地建物を相続した場合は330㎡までは相続税の課税から評価額の80%を減額できます。このような特例には、それぞれ条件がありますので申告事項に間違いがないか再度ご確認ください。
3-4.分割法が変わった場合
相続税は、相続財産が分割されていない場合であっても「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」に申告と納税しなければなりません。しかし、遺産の分割が10ヶ月以内にはっきりと決まらないケースも多く、その場合には10ヶ月を過ぎてからも遺産分割の話し合いを続け、決定後に再度申告をします。
正式に分割の協議が終わったのちに初めて特例を適用できることから、10ヶ月以内に申告した相続税額より納税額が少なくなることも多く、正しい税額を記載した申告書(更正の請求)を改めて提出することができます。また、場合により増えることもありますので、その際は「修正申告」を提出します。このような、法定相続分と実際の相続の割合を途中で変えた際に申告を忘れがちになります。
なお、分割協議後に特例を適用しない場合には、相続税が変わらないためあらためて申告は不要です。
4.相続税の修正申告にかかるペナルティは最小限にする
修正申告には申告期限がありませんが、申請によってペナルティが発生します。ですから早めの手続きが肝心です。ここでは修正申告の期限とペナルティについてご紹介します。
4-1.納付期限を過ぎたら「延滞税」が発生
相続税の納付期限を過ぎて納付した場合には、遅れた日数を基準にペナルティとして延滞税の支払いが発生します。日数が基準となりますので、1日でも早い納税をオススメします。
延滞税の税率は2段階に分けられます。原則の税率が決まっていますが、時期によっては特例があります。特例期間については、国税庁のホームページで確認をしましょう。
4-1-1.延滞税の原則税率
(1) 納付期限から2ヶ月以内:年「7.3%」または「前年の11月30日の公定歩合+1%」の低い方
(2) 納付期限から2ヶ月超 :年「14.6%」または「特例基準割合+7.3%」の低い方
4-1-2.延滞税の特例税率(平成27年1月1日~平成28年12月31日)
(1) 納付期限から2ヶ月以内:年2.8%
(2) 納付期限から2ヶ月超 :年9.1%
図2:平成27年1月1日~平成28年12月31日の延滞税の特例税率の考え方
4-2.相続税の申告を実際より少なくした場合には「過少申告加算税」が発生
誤って少なく税金を申告してしまった場合で、自主的に、修正申告書を提出した場合には課税されませんが、税務調査通知後に修正申告書を提出した場合や、更正があった場合は追加納付した税金の10%(追加納付税額が「期限内に申告した税金」または「50万円」のいずれか多い金額を超える部分に対しては15%)となります。
4-3.相続税の申告をしていない場合は「無申告加算税」が発生
納付すべき相続税に対して申告書を提出していなかった場合、自主的な申告書の提出は、納付すべき税額の5%を乗じて計算した金額が課せられます。また、税務調査により発覚した場合には納付すべき税額の15%を乗じて計算した金額が課せられます。ただし、納付すべき相続税が50万円を超える場合には、50万円超える部分については20%を乗じて計算した金額が課せられます。
4-4.相続財産を仮装・隠ぺいした場合は「重加算税」が発生
申告内容に仮装や隠ぺいの事実が認められた場合は、過少申告加算税と無申告加算税に代わり、重加算税が課せられます。過少申告加算税に代わり、納付する重加算税は税金の35%相当額です。期間後申告で無申告加算税がかかる場合は、納付する税金の40%相当額となり、かなりの税負担となりますので、申告は必ず行ってください。
5.相続税の修正申告は専門の税理士への相談がおススメ
相続税の修正申告は税務署からの税務調査のお知らせが届く前に正しく申告をしてペナルティも最小限にしておきたいものです。相続税を専門にしているチームがある税理士事務所や、相続税の対応件数が多い税理士事務所へ相談することで、安心した相続税の修正申告の申告書類を提出することができるようになります。修正申告も自分でやりたい、以前申告を依頼した付き合いのある税理士さんに依頼したいという気持ちもわかりますが、日ごろから相続税を専門で担当する税理士のノウハウをぜひ活用しましょう。
※税理士の選び方について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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6.相続税の修正申告書の主な様式
「相続税の修正申告手続」で作成する主な様式は以下のとおりです。相続税の修正申告書は、第1表から作りはじめるのではなく、通常は各申告に係る明細書や計算書を作成して、最後に課税価格や相続税額、相続税の総額を第1表(第2表)に書き込む流れになります。ご自身で作成する場合には、こちらを利用します。
6-1.第1表:相続税の修正申告書
課税価格の合計額、相続税総額、課税遺産総額、各人の納付税額の計算に用います。
いずれの修正申告にも必要な書類となっています。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h29pdf/syusei_01.pdf
6-2.第2表:相続税の総額の計算書
被相続人が残した遺産全体に対する相続税額の合計額である相続税の総額を計算します。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h29pdf/02.pdf
6-3.修正第5表の付表:配偶者の税額軽減額の計算書(付表)
配偶者の税額控除額の計算に用います。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h29pdf/syusei_05fu.pdf
6-4.第8の2表:(修正申告用)株式等の納税猶予税額の計算書
株式の納税猶予額の計算に用います。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h29pdf/syusei_08-2.pdf
6-5.第11・11の2表の付表1:(修正申告用)小規模宅地等についての課税価格の計算明細書
小規模宅地等、特定計画山林 特定事業用資産の課税価格の計算に用います。
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h29pdf/syusei_11_11-2fu1.pdf
6-6.第15表:(修正申告用)相続財産の種類別価額表
https://www.nta.go.jp/taxes/tetsuzuki/shinsei/annai/sozoku-zoyo/annai/h29pdf/syusei_15.pdf
相続税の申告書は年度によって異なります。詳しくは、国税庁HPよりご確認頂けます。
7.まとめ
相続税の申告・納税期限は「相続の開始があったことを知った日の翌日から10ヶ月以内」であることから期限内に遺産分割の話合いを終え、正しく申告書を作成して納税しようとすると、とても大変です。相続税の申告にはいろいろな特例もありますし、ご自身で申告をされるにはかなりの労力が必要かと思います。
また、間違っていたり、相続財産の対象となると思わなかったりと指摘される内容があると、税務調査の対象となる可能性が増え、延滞税をはじめとしたペナルティが課せられます。あわせて、修正申告が必要となり、通常の申告同様に大量の書類を作成する必要があります。もちろん、それぞれの申告にあった添付書類(残高証明書、預金証書コピー、通帳コピー)も必要です。
相続税の申告が不安な場合には、ぜひ相続税の経験が豊富な税理士への依頼をおすすめします。