
相続した不動産の売却にかかる税金と損しないための重要なポイント
お父さまが亡くなられて実家を相続したけれど、ご自身の持ち家があり住む予定がない、あるいは現金化して遺産分割を進めたい等の理由で売却を考えているけれど、相続した家の売却と通常の家の売却では何か異なるのだろうかとご不安ではないでしょうか?
本記事では、相続した不動産を売却する際の手続きや税金を減額させる特例等をご説明しています。税金を抑える特例や売却の際の名義の取り扱い等についてご確認いただき、効率よく売却を進めていただければと思います。
Contents
1. 相続した不動産の売却は時期が重要
相続により取得した不動産を売却するタイミングは、特例等を最大限利用できる時期を加味することがとても大切です。相続した不動産を売却する場合、いつ売却するのがいちばん相続税と所得税の合計額を少なくできるのかを確認しておきましょう。
図1:相続した不動産を売却するいちばん適した時期
1-1.「小規模宅地等の特例」を適用するときは申告期限まで売却できない
相続する不動産については、「小規模宅地等の特例」が利用できるかどうかで、相続税額が大きく変わってきます。小規模宅地等の特例の要件を満たすと、「相続税を計算する時の土地の評価額を最大80%減額」できます。
5,000万円の土地が80%減額されて1,000万円の価値として取り扱うことができます。
この特例を適用するには、相続する方によって時期の拘束があります。
配偶者が相続する場合には適用の要件はありませんが、ご自宅の土地を相続した人が配偶者以外の同居していた親族の場合、相続税の申告期限である亡くなられてから10ヶ月後までは所有し続けること、また居住していることという要件を満たさなければなりません。
申告期限までに売却してしまうと特例が使えなくなりますので注意が必要です。
※小規模宅地等の特例について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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図2:「小規模宅地等の特例」で評価額5,000万円の実家が80%減額される
1-2. 「取得費加算」を適用するときは相続後3年10ヶ月以内に売却する
相続した不動産を売却する場合には、売却した金額に対して譲渡所得税がかかります。相続した際に相続税を納税していた場合、売却によりさらに所得税もかかるとなると、負担がかなり重くなってしまいます。
よって、相続した不動産を一定期間内に売却する場合には、すでに納税した相続税の一部を取得費加算額として差し引くことができます。詳しくは取得費加算の特例の説明として3-1でご説明します。
この取得費加算の特例は、相続した不動産を相続が開始した日から3年10ヶ月以内に売却した場合にのみ利用できます。不動産を相続して相続税を納税した場合で、さらにその不動産をいずれ売却しようとお考えであれば、相続開始から3年10ヶ月以内がベストとなります。
※取得費加算について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2. 相続した不動産を売却するときの名義の考え方
相続した時点では、一般的には不動産の名義は亡くなられたお父さまになっています。
ただし、不動産の名義変更〈相続登記〉は義務ではなく法的な期限の定めもないこと、費用も発生することから、亡くなられたお父さま以外の名義のままになっている場合もあります。
今回、相続する不動産を売却したい場合には、早期に相続登記をおこない名義をしっかりと変更して正しい状態にしておくことが大切です。
知らない間に他の相続人が自分の持分だけを勝手に誰かに売却してしまったり、そもそも権利関係が複雑化しており売却できないということに陥る可能性があります。
名義変更をしないことによりおこるトラブルは数多くありますので、売却をするためにしっかりと整えましょう。
2-1.亡くなられた方の名義では売却できない
相続したご実家に住む予定がなくすぐに売却する場合、亡くなられた方の名義のまま不動産を売却できると思われる方もいらっしゃいますがそれはできません。
相続した方の名義に一度変更して、そのあと売却時に買い主の方の名義に再度変更する手続きをおこないます。
手続きのわずらわしさや諸経費がかかることから、名義変更を省いて、直接買い主に所有権の移転登記をしたいと思うものですが、相続した不動産を第三者に売却する場合は、必ず相続人の名義に一度変更する必要があります。
不動産の売買契約を締結するまでに、必ず相続登記を終わらせておきましょう。
2-2. 遺産分割協議で決まった相続人の名義に変更する
亡くなられたお父さまが遺言書を作成していない場合は、相続財産をどのように分けるのかについて相続人全員で遺産分割協議をおこない話し合います。
相続人が複数いる場合、亡くなられたお父さまの不動産を引き継ぐ方が決まるまで、相続人全員の共有財産になります。
遺産分割協議により不動産を取得する相続人が決まったら、速やかに相続登記をしてご自身が相続した状態にします。このときに遺産分割協議書が必要になります。
遺言書が作成されていた場合には、亡くなられた方の不動産を遺言で指定された相続人が引き継ぎます。そのときには、その遺言書を添付すれば相続登記を完了させることができます。
2-3. 不動産を売却して現金で分割するときは代表者を決める
亡くなられたお父さまのご自宅を引き継ぎたい人がいない場合や、相続財産を分割するためにはお父さまのご自宅を売却して現金化し、相続人全員で分配する必要がある場合には代表者を決めて名義変更をおこないます。
代表者名義にすることで、代表者が単独で各種手続きを効率的にスムーズに進めることができます。
図3:土地を売却する
2-3-1.共有名義はおすすめしない
相続人全員の共有名義にしてから売却することもできます。しかし、売却手続きのためには相続人全員が相続登記をおこなう必要があり、契約時にも全員の立会いが必要等、手間がかかります。
相続した不動産を売却する場合には共有名義にせず、代表者名義にされることをおススメします。
なお、今回は売却しないとしても不動産を共有名義にすることは、全員の承諾がないといろいろな手続きが進みませんし、共有名義となっている方が亡くなられるとその権利がさらに複数名に分割されていくことから、いずれ売却を検討した際に疎遠な方や初めて会う方など、多くの方の承諾を得ないと売却できない事態になってしまいます。
図4:共有名義
2-3-2.遺産分割協議書に換価分割することを必ず記載する
相続人の代表者に名義変更をして売却する場合には、遺産分割協議書に「代表の相続人の名義で相続登記をして、そのあとで換価分割する」ということを明記します。
換価のためということを明記しておかないと、代表者から他の相続人に現金を分配することが贈与扱いになってしまいますので、注意が必要です。
図5:遺産分割協議書の例
3. 相続した不動産の売却時につかえる税を軽減する特例
不動産を売却したときに生じた利益に対して所得税と住民税がかかります。相続した不動産を売却するときに使える税金を安くする特例を上手に使いましょう。
3-1. 相続税が取得費に加算される特例
不動産を売った利益を譲渡所得といいます。
相続した不動産の場合、売却した値段(譲渡価額)から亡くなられたお父さまが購入した値段(取得費)と売るときの諸経費(譲渡費用)を引いた金額が譲渡所得となり、この所得に対して税金がかかります。
図6:譲渡所得の計算式
譲渡価額(収入金額):売った値段
取得費:購入した値段
譲渡費用:仲介手数料など売るために支払った費用
さらに、1-2でご説明した取得費加算の特例を受けると、納税した相続税の一部を取得費として加算することができます。
図7:取得費加算の特例を適用した場合の譲渡所得の計算式
3-2. 居住用不動産の3,000万円控除をつかう
相続した不動産に住んでいてそのあと売却をする場合には、譲渡所得から最高3,000万円まで控除できるという「居住用不動産の3,000万円特別控除」を使うことができます。ご実家で同居していた場合に限り適用できます。
この特例を適用することにより譲渡所得3,000万円までは税金がかからないことになります。取得費加算の特例との併用も可能です。
3-3. 特例を受けるためには確定申告が必要
相続した不動産を売却して利益が出た場合、また特例を受けるためには、売却した年の翌年の2月16日から3月15日の期間に確定申告をおこないます。
確定申告は通常の所得税の手続きと同時にできます。特例適用のための必要添付書類がありますので税務署等で確認しましょう。
4.まとめ
相続した不動産の売却をするときは、まずは相続人のいずれかに相続登記をする必要があります。
相続登記を済ませていないと売却できませんが、相続登記の必要書類(戸籍謄本など)を集めるのに思いのほか時間がかかることがありますので、タイミングを逃さないためにも早めに相続登記をしておきます。
また、不動産を売却したあとは譲渡所得税、住民税がかかりますので、それらの税金を最小限に抑えるために取得費加算の特例が利用できる時期を確認して、確実に期間内に相続した不動産を売却できるように進めていきましょう。
相続した不動産を必ずしも売却できるとは限りません。売却できる不動産を相続した場合には、本記事を参考にして進めていただければと思います。
さいごに、相続した不動産を売却する際の取得費加算の適用や確定申告をスムーズに進めたい場合には、相続に強い税理士にご相談されることをおススメします。