
相続の調停を考えたときに避けるべき理由といざという時の手順
「お母さんも兄弟もお父さんの相続に対して好き勝手なことを言ってばかりで、まったく分割内容が決まらないし、手続きも進められない・・・困ったな」
いざ相続の手続きを開始しようとすると相続人であるご家族がそれぞれ主張を始めてしまい、いつまでも結論が出ずお困りではないでしょうか。
遺言が残されていない場合は、相続財産を法定相続分で分けるか、もしくは遺産分割協議をおこなって相続人全員で話し合い合意をすることで自由な割合で分割するかのいずれかとなります。
相続人同士では話し合いがまとまらない場合の次のステップは「遺産分割調停」を選択することになります。ただし、調停に進んだり弁護士に依頼をするとお金と時間がかかることに覚悟が必要となります。
本記事では、「遺産分割調停」に進んだ場合のリスクと、それを加味して「遺産分割調停」を進める場合の手順についてご説明していきます。
Contents
1.相続で揉めても「遺産分割調停」ではなく話し合いで解決すべき
相続の際にトラブルが起きたときに利用する遺産分割調停とは、相続人同士の話し合いでは到底まとまらない場合に、家庭裁判所へ申立をおこない解決に向けて順次話し合いをしていくことです。
調停となると相続人のみなさんがそれぞれご自身の主張ばかりを話して有利に進めようとされることも多いのですが、調停では法的な根拠をもとにアドバイスを受けることになるため、結局納得がいかず平行線を続けることになりかねません。
そして調停においては話がまとまらないと審判に移りますが、審判ではおおよそ法定相続分での分割になることが多く、結局時間と弁護士費用等のお金をかけて法定相続分での分割になります。
法定相続分での財産分割に納得がいかない場合に調停を選択することも一つですが、結果的に法定相続分から弁護士等の費用を引いた金額を相続する可能性が高くなります。
この結論を知っている方は調停を選択せず、結論を家族に伝えて話し合いで終わるようにすることが良いかと思います。
図1:遺産分割協議で決裂したら次のステップは遺産分割調停
2.「遺産分割調停」をおススメしない4つの理由
1章でもご説明したとおり、調停で話し合いがまとまればいいのですが、結果的にまとまらないと審判に進んで法定相続分で分割する可能性が高くなります。
調停でなぜ結論が出づらいのか、調停のデメリットは何かという視点でおススメしない理由をご説明していきます。
2-1.合意に向けた話し合いをするだけで白黒はっきりする場ではない
遺産分割調停は裁判所で行われます。裁判所に行くとご自身は、裁判官・調停委員の方とお話をすることになります。他の相続人の方も同様に裁判官・調停委員の方に対して各自の想いを主張します。
裁判官と調停委員はそれぞれの相続人の想いを聞いて、他の相続人へ伝える役目を担い、前向きな解決策を提案することで相続人の皆さんが合意できるよう調整していきます。
しかし、遺産分割調停は合意を目指した話し合いを調整するだけのもので、裁判所からの提案も助言に留まります。決定事項とする強制力はありませんので、結局は相続人同士が話を聞いて折り合いをつけれるかどうかがポイントとなります。
図2:遺産分割調停
2-2.自分の主張をしつつ法的な根拠を基にアドバイスを受ける場
遺産分割調停では、相続人同士が直接顔を合わせて話し合うことはありません。
裁判所を介すことで、相続人同士で話し合うよりも素直な気持ちで意見を伝えられると思いますが、自己主張ばかりするのではなく、冷静な気持ちになって相手の主張を聴き入れる姿勢も求められます。
お互いの主張や想いはありますが、裁判所としては誰かに加担することもなく、法律的な根拠に基づいて説得するスタンスで接してきます。調停をしたことでご自身が望んだ割合で分割できるよう他の相続人を説得してくれるものではありません。
あくまでも法的な根拠に基づき、互いが合意できる案を導き出してくれることに留まりますので、結局は相続人同士で折り合いをつけるしかありません。
2-3.遺産分割調停の期間は1年以上
遺産分割調停が始まると、1ヶ月に1度くらいの頻度で行われるため裁判所に通います。話し合いがまとまらなければ「また次回に」となり、短くて半年、通常は1年以上の期間を要します。
長引けば3年以上といったケースもあります。また平日におこなわれるため仕事との調整も難しいです。
そして、相続税の申告対象となる場合には、申告期限である相続発生の翌日から10ヶ月以内に間に合うように相続税の申告をしなければなりませんが、調停が長くなると到底間に合いません。
未分割の状況での相続税の支払いは大変ですが、必ず相続税の申告が必要となりますのでご注意ください。
※未分割の申告について詳しくは、こちらを参考にしてください。(当サイト内)
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2-4.調停から審判に移っても最後は法定相続分になることが多い
調停を継続しても結論が出ない場合には、不成立となって審判に移行します。
審判に移行すると裁判所が判断して結論を伝えます。この際に法定相続分に基づいた遺産分割が言い渡されることが多いため、調停と審判に労力を使って結果的に法定相続分での分割となると気が抜けそうになります。
また、審判を有利にすすめるために弁護士に代理人をお願いすると別途報酬が必要となります。
3.遺産分割調停をする場合の流れ
調停や審判をすることのデメリットをお話しても平行線となる場合には、デメリットを理解した上で、遺産分割調停の手続きを進めなければならない状況もあります。
その場合の手続きの流れはさほど難しくなく、必要書類とともに申請書を提出するだけとなります。また、実際に調停が行われる回数は案件によってさまざまとなりますが、数回から10回ほど繰り返されるケースが多いようです。
調停を飛ばして、次のステップである審判の申立てをすることも可能ではありますが、ほとんどの場合は裁判所の判断によって調停から始めることになります。
3-1.家庭裁判所に申立てをする
相続人の方が申立人として管轄の家庭裁判所へ申立てを行います。
亡くなられた方の最後の住所地を管轄する家庭裁判所へ申立をおこなうことになります。また、申立人はお1人でも複数名でも構いません。
参考:管轄の裁判所はこちらをご確認ください。
図3:裁判所へ申立てに行く
3-2.調停期日に裁判所に行き話し合う
申立てが受理されると、裁判所から調停期日を指定した旨の連絡が届きます。指定された調停期日には裁判所へ行き、当日は相続人が1人ずつ交代で調停室に呼ばれます。
2-1でご説明したように、調停室では裁判官と調停委員が居て相続人がそれぞれの言い分を伝えます。さまざまな質問がきますが、それには真摯に回答します。
そうすると、裁判所は法的な根拠をふまえ、公平で妥当な分け方の提案とアドバイスをしてくれます。
3-3.話し合いの合意ができたら調停成立
裁判所が介入して相続財産の分割に対してアドバイスをしてくれた結果、分割内容に関して相続人の皆さんが合意に至ることができれば、調停は成立となります。
調停が成立すると「調停証書」が作成され、合意された内容が記されます。この調停証書は法的に強い効力を持ちます。
図4:調停が成立すると調停証書が発行される
4.遺産分割調停の必要書類と費用
遺産分割調停の申立をする場合の必要書類と費用に関してご説明します。
申立てに必要書類は一般的な相続の手続きで必要とされる戸籍謄本などの書類ですので、準備をする際に困ることは少ないです。
4-1.申し出に必要な書類一覧
遺産分割調停の必要書類の一覧です。
裁判所に提出する書類は、原則、還付されないものだと認識しておくとよいでしょう。また、同じ戸籍謄本や住民票は1通ずつご用意頂ければ問題ありません。
表1:必要書類一覧
図5:遺産分割調停申立書見本
※裁判所ホームページ「遺産分割調停の申立書」より
4-2.申立にかかる費用は収入印紙1200円と切手代
申立の手数料は、1案件につき1,200円の収入印紙で納めます。
その他は、裁判所からの連絡用郵便切手代がかかります。切手については管轄の裁判所によって金額が異なる場合がありますので、事前に裁判所に確認しましょう。
5.遺産分割調停が不成立だと遺産分割審判に進む
遺分割調停をおこなった結果、不成立となると遺産分割審判に自動的に進みます。
2-4でもご説明したとおり、調停は提案型であり相続人の皆さんが納得するかどうかでしたが、審判に移行すると裁判所が判断して結論を伝えます。
図6:遺産分割調停から自動的に遺産分割審判に移行
6.まとめ
相続人同士で遺産分割協議をおこなっても、どうしても合意できない場合には裁判所の力を借りて遺産分割調停という話し合いをすることになります。
裁判所でおこなわれる内容ですが、調停の段階では法的な根拠をもとに合意に向けた話し合いを進める流れにとどまり、強制的な判決が下されることはありません。
その状況で1年以上の月日を過ごすことになりますし、裁判所に何度も足を運んで合意に向けた話し合いをすることは、相続人の方にとってかなり負担となります。
そして、遺産分割調停が成立すればいいのですが、不成立の場合には次のステップである遺産分割審判へ移行し、裁判所が判断を下すことになります。
この結果を知っているのであれば、できる限り相続人同士で話し合い、解決されることをおススメします。
遺産分割協議に関しご不明な点やご不安がある場合には、相続の専門家へ早めにご相談されると解決の道を早く見つけられることと思います。