
相続税の障害者控除はいくら?適用条件と控除額の計算方法
ご家族に障害者の方がいらっしゃる場合には、家族が元気でそばで支えていられる間は安心ですが、万が一のことを考えるといろいろと心配事があると思います。「相続財産をいくら残そうか」「1円でも多くの財産を残して困らないようにしたい」など、将来の財産について相続のことをしっかり考えられていると思います。
日ごろの給与所得で「障害者控除」があるように、相続でも「障害者控除」などの優遇処置はないのか。と考えられている方は、ぜひ「相続税の障害者控除」について本内容を確認いただき、相続の際にご活用ください。
Contents
1.相続税の障害者控除により障害のある方の相続税が減額できる
相続税の障害者控除とは、ご家族に障害者の方がいらっしゃる場合に、その方が相続人となる場合に優遇される制度です。
毎年の給与所得の年末調整や確定申告などでも障害者の方がご家族にいらっしゃる場合に障害者控除が適用されてるかと思いますが、その考え方と同様です。
特にお子さんが障害を持たれている場合には、ご自身が亡くなられた後、生活をしていけるかどうか心配ですので、少しでも多くの財産を残してあげたいと考えられると思います。
条件に該当した場合には、優遇処置が受けられますので、相続させる財産と制度を確認して将来のお子さんの生活設計をしておきましょう。
2.障害者控除の額は「満85歳までの年数×年控除額」
障害者の方が満85歳になるまでの年数1年(年数の計算にあたり、1年未満の期間は切り上げ)ごとに控除額が増えていきます。
障害者控除は「85歳-相続開始時の年齢」×「1年の控除額」となります。「1年の控除額」は障害の等級によって異なります。
図2:障害者控除の算定式
2-1.控除額は一般障害者(10万円)と特別障害者(20万円)
障害者控除の1年の控除額は次のとおりです。障害の等級により控除額が異なります。
・特別障害者 : 20万円
・一般障害者 : 10万円
2-1-1.一般障害者の定義
・身体障害者手帳において、身体上の障害の程度が3級から6級の方
・精神障害者保健福祉手帳において、障害等級が二級又は三級の方
2-1-2.特別障害者の定義
・身体障害者手帳において、身体上の障害の程度が1級又は2級の方
・精神障害者保健福祉手帳において、障害等級が一級の方
2-2.一般障害者の障害者控除額の計算例
一般障害者の方の1年の控除額は10万円のため、次の式となります。
図3:一般障害者の方の障害者控除の式
(計算例)
亡くなった方のお子さん(満45歳2ヶ月)の場合の障害者控除
(85歳―45歳)×10万円=400万円
2-3.特別障害者の障害者控除額の計算例
一般障害者の方の1年の控除額は20万円のため、次の式となります。
図4:特別障害者の方の障害者控除の式
亡くなった方のお子さん(満45歳2ヶ月)の場合の障害者控除
(85歳―45歳)×20万円=800万円
3.障害者控除の控除額は、財産からの控除ではなく相続税から
障害者控除で最も認識をしていただきたいのは、相続税の額から一定の金額を差し引ける点です。障害者控除額が仮に400万円であった場合には、3,000万円の財産を相続しても非課税になるということです。
3-1.相続税から障害者控除を差し引くイメージ
仮に1,000万円を相続する場合には、相続税の実行税率が10%となることから、次のようになります。
健常者の方が1,000万円を相続する場合:
1,000万円×10%=100万円
障害者の方が1,000万円を相続する場合:
1,000万円×10%=100万円―100万円=0円
※障害者控除が100万円の場合
3-2.対象者の相続税から障害者控除額が引ききれない場合
障害者控除額が利用できると、かなり大きな財産を非課税で相続できることがお分かりいただけたと思います。障害者本人の相続税額より控除額が大きくなり、控除額の全額が引ききれないケースもあります。そんな時には、引ききれない部分の金額をその扶養義務者(配偶者・直系血族・兄弟姉妹・3親等内の親族)の相続税から差し引くことができます。
障害者の方が相続した財産が1,000万円(本来の相続税100万円)で障害者控除の枠が300万円であった場合、200万円が引ききれません。その際に、その兄弟が2名いてそれぞれ1,000万円(本来の相続税100万円)の相続をした場合には、残りの200万円分を引くことができますので、ご兄弟の方は相続税が0円で相続ができることになります。
4.相続税の障害者控除は4つの適用条件にすべて該当する方
相続税の障害者控除を受けるには、条件があります。次の4つの内容にすべてあてはまる場合に税額控除を受けることができますのでしっかり確認しましょう。なお、贈与税についても非課税枠がありますので、生前に対策をされる場合には5章をご参照ください。
4-1.相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある人
相続や遺贈で財産を取得した時に日本国内に住所がある方が対象となります。海外に住所がある場合には、対象とならないため注意をしましょう。
4-2.相続や遺贈で財産を取得した時に障害者である人
財産を取得した時に「障害者」として認定されていることが条件となります。一般障害者と特別障害者のいずれも対象ですが、障害者控除の計算の基準額が異なりますので2章をご確認ください。
4-3.相続や遺贈で財産を取得した人が法定相続人であること
障害者控除を受ける方が、「法定相続人」である必要があります。法定相続人は次の図の配偶者および第一順位から第三順位の方です。ただし、相続の放棄があった場合には、その放棄が無かったものとした場合における相続人が対象となります。特に遺贈の場合は、通常の相続であれば法定相続人であるかどうかは問われませんが、障害者控除では「法定相続人」である必要があります。
図1:法定相続人の範囲
4-4.満85歳未満であること
相続税の障害者控除は相続人の年齢が満85歳になるまでとなっています。相続人の年齢が若いほど相続後の生活期間が長く大変だということで、控除額が大きくなる仕組みとなっています。
5.相続税の障害者控除の申請種類と添付書類
相続税の障害者控除を受けるには、通常の相続税の申告書に加えて、次の書類と添付書類を提出します。
<申請書類>
第6表:障害者控除額の計算書
<添付書類>
障害者手帳のコピー
6.障害者控除の3つの注意点
障害者控除の適用を考える際に注意すべき3つのポイントをご紹介します。
6-1.障害者手帳の申請中の場合の対処法
障害者として医師から診断書の交付を受けた場合には、速やかに障害者手帳の申請をしましょう。基準は「相続や遺贈で財産を取得した日」となりますので、1月に亡くなった方の相続であれば10月が相続税の申告・納税期限となりますので、それまでに手帳の交付を受けましょう。ただし、医師の診断書が相続開始時にあり、手帳に記載される程度の障害があった場合には認められます。
6-2.以前の相続で障害者控除を受けていると控除額が制限されることがある
対象となる相続人の方が今回の相続以前の相続において障害者控除受けている場合には、控除額が制限される場合がありますので、注意が必要です。
6-3.「要介護認定」は、障害者控除の対象では無い
「要介護認定を受けていれば、税法上の障害者に該当する」というのは、良くある勘違いです。要介護の方も障害者の方と同様に将来に向けて不安要素はありますが、「介護保険法の要介護認定」は、それだけでは「障害者控除の対象」とはならないということです。
7.まとめ
障害者控除について、ご理解していただけたでしょうか。
障害者の方の等級により控除の額が異なること、控除されるのは相続税額であることの2つについてぜひ押さえていただければと思います。
中にはご自身が障害者であることを知られたくないと考える方もいらっしゃいますが、そういう方々も「認定されれば税金が安くなる制度がある」ということは知っておいても損はないと思います。
この制度を適用した相続税の控除額は他の制度と比べてもとても大きいです。お子さんが障害者として認定されている場合には、この制度を活用して財産を1円でも多く遺していきましょう。
相続に関してご不安な場合は、ぜひ相続税の専門の税理士にご相談ください。